~「なんとなく不安」を数字で考えてみる~
会社経営において、「手元にどれくらい現金を残しておくべきか」という話はよく出ます。
では実際に、会社にはどれくらいの現金があれば安心なのでしょうか。
預金残高が1,000万円あっても不安な会社がありますし、500万円でも問題なく回っている会社もあります。
実は、この質問に万能な正解はありません。
それでも経営判断の目安になる考え方はいくつかあります。
そもそも、利益が出ている会社でも資金繰りに苦しむことがあります。
反対に、一時的に赤字でもすぐには困らない会社もあります。
会社の運営を支えるのは利益だけではなく、手元の現金です。
まずは、自社にどれくらいの資金が必要なのかを考えてみましょう。
現金は固定費の何か月分必要か
よく使われる指標の一つが、
「固定的な支出の何か月分の現金を持っているか」という考え方です。
例えば毎月、
- 人件費 200万円
- 家賃 30万円
- 借入返済 20万円
- その他固定費 50万円
の場合、毎月の資金流出はおおよそ300万円です。
預金が900万円あれば、売上がゼロになったとしても約3か月間は固定的な支出をまかなえる計算になります。
もちろん業種や事業内容によって異なりますが、
- 1か月未満 → 要注意
- 3か月前後 → 一般的な目安
- 6か月以上 → 比較的余裕あり
という見方をすることが多いでしょう。
ただし、売上変動が大きい業種や設備投資が多い業種では、さらに厚めの資金を確保したい場合もあります。
月商の何か月分の現金を持つべきか
固定費とは別に、
「月商の何か月分の現金があるか」を見る方法もあります。
例えば月商1,000万円の会社で預金が2,000万円なら、月商の2か月分を保有していることになります。
ただし、この指標だけでは十分ではありません。
同じ月商1,000万円でも、
- 利益率が高い会社
- 利益率が低い会社
では必要な資金量が異なります。
そのため、月商だけを見るのではなく、固定費や利益率、資金回収のサイクルもあわせて考えることが大切です。
業種によって必要な現金は変わる
現金の必要額は業種によって大きく異なります。
例えばクリニックや士業事務所は、比較的売掛金の回収が早く、在庫もほとんどありません。
一方で製造業や建設業では、
- 材料代を先に支払う
- 売上回収まで時間がかかる
- 在庫や仕掛品を抱える
といった特徴があります。
同じ利益が出ていても、必要な運転資金は大きく変わります。
「利益は出ているのに資金繰りが苦しい」という相談の背景には、こうした業種特性や資金回収サイクルの違いが隠れていることも少なくありません。
売掛金と買掛金のバランスも重要
資金繰りに大きな影響を与えるのが、売掛金や買掛金の回収・支払いのタイミングです。
例えば、
- 売掛金の回収は2か月後
- 仕入代金の支払いは翌月末
という会社では、売上が伸びるほど先に資金が出ていきます。
反対に、
- 回収が早い
- 支払いが遅い
会社は資金的に余裕が生まれやすくなります。
実際には、売上が増えたことで売掛金が膨らみ、利益は出ているのに資金繰りが苦しくなるケースもあります。
「売上が増えたのにお金が増えない」という現象は決して珍しいことではありません。
借入があるから危険、とは限らない
借入についても誤解が多いところです。
「借金は少ない方が良い」と考えるのは自然ですが、必ずしもそうとは言えません。
例えば、
- 設備投資を前倒しできた
- 生産能力が上がった
- 新規受注を獲得できた
こういったケースであれば、その借入は将来の利益を生み出す投資だったと言えます。
設備の導入を数年先まで待つのではなく、借入によって早めに実行することで、売上や利益の増加も前倒しできる場合があります。
また、手元資金に余裕を持ち、急な環境変化に備えることも借入の役割の一つです。
つまり、借入の良し悪しは残高の多寡だけでは判断できません。
重要なのは、
「返済できる見込みがあるか」「借入の目的が明確か」です。
本当に大切なのは「予測すること」
実は、預金残高以上に重要なのが、
「将来の資金の動きを予測すること」です。
現在の預金残高が1,000万円あっても、
- 納税 400万円
- 賞与 300万円
- 設備投資 300万円
が重なれば、手元資金は大きく減少します。
逆に、今の残高がそれほど多くなくても、今後の資金の流れが見えていれば落ち着いて判断できます。
経営者の不安の多くは、お金が足りないことではなく、
「先が見えないこと」から生まれているように感じます。
まとめ
会社に必要な現金額に絶対的な正解はありません。
固定的な支出の3か月分を目安にする方法もありますし、業種や売掛金・買掛金の状況によっても大きく変わります。
大切なのは「いくら持っているか」だけではなく、
「半年後、1年後にどうなっているか」を把握することです。
設備投資をした場合、借入を増やした場合、人員を採用した場合など、複数のパターンで将来の資金の動きを確認してみましょう。資金の流れが「見える化」されることで、借入や投資の判断もしやすくなります。
「うちの場合はどれくらい現金が必要なのだろう」
と感じた際は、一度数字を整理してみてはいかがでしょうか。
当事務所では、資金繰り表やキャッシュフローシミュレーションの作成支援も行っています。
良ければご相談ください。