2025年の最低賃金はどの地域も1,000円を超え、過去最大級の引上げとなりました。政府は「賃上げによる経済の底上げ」を掲げていますが、中小企業にとっては人件費負担の増加が避けられません。最低賃金の上昇は単なる時給の話にとどまらず、会社の人件費率、社会保険料、そして扶養内で働くパートやアルバイトの働き方にも影響を与えます。
今回は、経営者が知っておくべき最低賃金引上げの「見えにくいコスト」と、その対応のポイントを整理します。
1.自社の人件費率を把握していますか?
最低賃金が上がると、人件費が増加します。
しかし、重要なのは自社の人件費率を正確に把握しているかどうかです。
人件費率 = 人件費 ÷ 売上高 × 100(%)
例えば、売上1億円の会社で人件費が4,000万円なら、人件費率は40%です。最低賃金引上げで年200万円人件費が増えれば、人件費率は42%に上昇します。数字上は2ポイントですが、利益率が数%の会社にとっては大きな影響です。
まずは自社の人件費率を数字で把握することが第一歩 です。
2.給与アップ=社会保険料アップ
給与を上げると、会社負担の社会保険料も増えます。社会保険料は労使折半で、会社負担分は給与総額の約15%前後です。例えば給与を月5万円上げた場合、会社負担の社会保険料が7,500円程度増えます。従業員10人なら年間で約90万円の負担増となります。
この「見えにくいコスト」を把握せずに給与だけ上げると、資金繰りに影響が出る可能性があります。
3.扶養内パートの働き方への影響
令和7年度税制改正により、配偶者控除・扶養控除の対象となる給与収入の目安は 123万円 に引き上げられました。これにより、従来より高い給与でも配偶者控除が受けられるようになりますが、同時に社会保険加入義務は 年収130万円 を超えると発生します。
つまり、扶養内で働くパートやアルバイトは、最低賃金が上がると働ける時間が短くなる場合があります。たとえば時給1,050円になった場合、123万円線や130万円の社会保険加入義務ラインを超えないように調整する必要があります。結果として、シフト調整や人員補充が必要になるケースも考えられます。
4.経営者が取るべきアクション
(1)人件費率の定期確認
- 自社の人件費率を計算し、業界平均と比較
- 売上が横ばいでも人件費だけ増えていないか確認
(2)社会保険料込みでの総コスト試算
- 給与アップ額だけでなく、社会保険料も含めた総コストを試算
- ボーナス支給時には影響が大きいため注意
(3)扶養内勤務者のシフト調整
- パート・アルバイトの希望をヒアリングし、勤務時間を柔軟に設計
- 必要に応じて短時間労働者の増員も検討
(4)生産性向上を前提とした人員計画
- 人件費を「コスト」ではなく「投資」として捉える
- IT活用や業務改善で、少ない人員でも成果を出せる仕組みを作る
5.まとめ
2025年の最低賃金引上げは企業にとって大きな負担ですが、同時に自社の人件費構造を見直すチャンス でもあります。
- 人件費率を数字で把握しているか
- 社会保険料も含めた給与総額を試算しているか
- 扶養内勤務者の勤務時間調整を考慮しているか
これらを確認することで、単なる「コスト増」ではなく、会社の基盤強化につなげることが可能です。最低賃金引上げを前向きに捉え、経営改善のきっかけにしてみてください。