あなたは、市場の小さな変化も、危機の兆候も、次に打つべき手も、手に取るように分かる。
長年の経験と研ぎ澄まされた直感で、まるで「空気」を読むように経営判断を下してきたはずです。
しかし、こんな疑問を抱えたことはありませんか?
「なぜ、この簡単なことが社員には伝わらないんだ?」
「私が見えている景色が、なぜ君たちには見えないんだ?」
その違和感、実はあなたが持つ「成功の秘訣」が原因かもしれません。
イメージしやすいように、自転車でたとえてみます。
自転車の乗り方を、言葉だけで説明できますか?
たとえば、「ペダルを踏んで、ハンドルでバランスを取って、前に進む」と言ったところで、初めて自転車に乗る人が、すぐに乗れるようになるでしょうか?
おそらく、多くの人はうまくいきません。
なぜなら、本当に必要なのは言葉では伝えきれない「感覚」や「身体の使い方」だからです。
バランス感覚、重心移動のタイミング、カーブでの体重のかけ方など
これらは説明できませんが、身体で覚えているからこそ、あなたは自転車を乗りこなせるのです。
認知科学では、このような言葉で説明できない、自分で作り上げた暗黙の知識の塊を「スキーマ」と呼びます。私たちが持つ情報の大部分は、実は言語化できない「暗黙知」です。
情報は、言語化されている情報が1割、そして言語化されていない情報が9割で分けられていると言われています。
私たちが「できる」ことの大部分は、この言語化できない9割の暗黙知に支えられています。自転車の例で言えば、「ペダルを踏んで…」はたった1割。残りの9割は、実際に転びながら練習し、無意識レベルで身体に染み込ませることでしか習得できません。これがスキーマです。
経営の暗黙知とは
経営も、まったく同じです。あなたが社員に伝えていることは、言語化された1割に過ぎません。
- 「売上を上げるには、顧客満足度を高めて…」
- 「組織を活性化するには、理念を浸透させて…」
- 「業績向上のためには、PDCAを回して…」
では、残りの9割の暗黙知とは何でしょうか?
- 市場の微細な変化を察知する嗅覚
- 決断すべきタイミングを見極める直感
- 相手の心を動かす言葉の選び方
- 危機を乗り越える時の思考プロセス
これらはすべて、あなたが創業から今日まで、修羅場をくぐり抜けてきた中で培われた、かけがえのない暗黙知です。それは間違いなく、あなたの貴重な財産です。
しかし、多くの優秀な社長がこう言います。
「私はこれでやってきた。なぜ君たちはできないんだ?」
この瞬間、致命的な勘違いが起きています。
あなたは、自身の暗黙知(9割)を、言語化された情報(1割)だけで伝えようとしているのです。これは、自転車の乗り方を「ペダルを踏んで…」と説明するだけで、「なぜ乗れないんだ!」と叱りつけるようなもの。
この暗黙知のギャップが、組織に深刻な連鎖反応を引き起こします。社員は決して怠けているわけではありません。彼らが本来持つ「貢献したい」「成長したい」という意欲が、このギャップによって抑圧されているのです。
このような連鎖反応は、社長、管理職、現場で以下のような状態を生み出します。
社長が「裸の王様」になる
暗黙知を持っているのはあなただけ。そのため、すべての重要な判断をあなたが一人で下すことになります。「最終的には私が決める」という状態は、あなたが組織の成長の「天井」になった瞬間を意味します。
管理職が「沈黙」を選ぶ
「なぜ分からないんだ」と詰められ続ける管理職たちは、「新しい提案をすると怒られるなら、黙っていよう」と、挑戦を諦め現状維持マシンと化します。本来持つ貢献意欲が、「学習性無力感」によって失われてしまうのです。
現場が「絶望」する
上層部の状況を見た現場の社員たちは、「この会社に未来はあるのか?」と不安を感じます。
自身の成長や自己実現の道が見えなくなり、結果として、優秀な人材から順に会社を去っていくことになります。
この問題の本質は、あなたが優秀すぎるがゆえに、暗黙知が豊富すぎるから起きているのです。必要なのは、あなたの暗黙知を「組織で共有可能な形」に変換すること。自転車で言えば、「支えて一緒に練習する仕組み」を作り、社員に「体験」させることです。
そこで弊社はMAS監査というサービスを提供しております。
MAS監査は、あなたの頭の中にある暗黙知を体系化し、組織全体が「体験・体感」を通じて「体得」するためのフレームワークです。
MAS監査は暗黙知を“共有・実践できる知恵”に変える、実践型の仕組み
ここではその中身を少しだけご紹介します。
1. 暗黙知を5つのステップで見える化
まず、言語化できる一割の部分を明確にし、組織の共通言語として確立します。これにより、全員が 同じ方向を向き、同じ基準で物事を考えられるようになります。
①理念・ビジョンの言語化: 「なぜ、この事業をやるのか?」
②戦略思考の体系化: 「どこで、どうやって勝つのか?」
③数値管理の仕組み化: 「何を、どこまで目指すのか?」
④実行プロセスの標準化: 「誰が、いつ、何をするのか?」
⑤学習サイクルの定着: 「どうやって、改善し続けるのか?」
2. 「実践機会」を通じた暗黙知の習得
本当に重要なのは、残りの9割、つまり「実践」を通じた暗黙知の習得です。
MAS監査では、これらの言語化された知識を基盤としつつ、実際の経営判断の場面で管理職・現場に「体験・体感」を促す仕組みを一緒に構築します。
これは、自転車を教えるのと同じプロセスです。
①最初は支える:あなたが横でサポートし、具体的な思考プロセスを共有する。
②徐々に手を離す:管理職に判断を任せ、結果を一緒に分析する。
③転んでも励ます:失敗を恐れずに挑戦できる環境を作る。
④小さな成功体験を積み重ねる:自分の力で課題を解決し、自信とスキルを向上させる。
このプロセスを通じて、管理職や現場はあなたの経営における「嗅覚」や「直感」といった暗黙知を、自身の経験として体得していきます。
さらにこのプロセスを通じて、組織の3つの層すべてに大きな変化が生まれます。
◎社長: 個人の「自論」から、再現可能な「理論」に基づいた判断基準を確立できる。
◎管理職: 「私たちならやれる」という自己効力感を回復し、自律的に動くようになる。
◎現場:「この会社の未来は明るい」という希望を獲得し、積極的に挑戦するようになる。
これが「我々だったらやれる」という集団的な自己効力感を生み出し、組織全体に計り知れない活力を与えます。
あなたの暗黙知は、あなたが墓場まで持っていくものではありません。
それは組織の貴重な財産として、次世代に継承すべき価値あるものです。
自転車を教えるように支えたつもりが、気づけば組織の“天井”になっていませんか?
「私はこれでやってきた」という暗黙知が、実は組織の成長を止めているとしたら?
MAS監査という仕組みを通じて、あなたのスキーマを組織の力に変えませんか。
一人で背負う経営から、みんなで創る経営へ。その転換点が、今です。
出典
YouTube 全てのマネジメントに悩めるリーダーを救いたい(2025/01/17) 【山宮健太朗】