社会福祉法人の税務調査について
法人の税務調査は通常、法人税を中心に調査されます。
しかし、社会福祉法人で法人税が課税されるのは収益事業(物品販売業、製造業、不動産貸付業など政令で定める34業種を、継続して事業場を設けて行う場合)に限定されています。
従いまして、収益事業を営んでいない社会福祉法人は、法人税の申告義務がなく、通常は税務調査の対象となりません。
しかし、社会福祉法人であっても、税務調査が入る場合もあります。
たとえ社会福祉法人であっても、職員への給与、役員報酬、外部講師への謝金などを支払う場合は、所得税を源泉徴収する必要があり、この点は通常の法人と何ら変わりありません。
そのため、社会福祉法人に税務調査に入る場合は、源泉所得税を中心に調査されることになります。
そこで、源泉所得税の税務調査において注意すべきポイントを上げておきたいと思います。
注意すべきポイント
1.『給与所得者の扶養控除等申告書』の提出について
法人が給与を支払う場合(複数箇所から給与を受ける場合は、主たる給与の場合)、『給与所得者の扶養控除等申告書』の提出が有るときは源泉徴収税額表の甲欄の税額を、提出がないときは源泉徴収税額表の乙欄の税額を源泉徴収します。
この場合、乙欄の税額は甲欄の税額より大きいため、もし『給与所得者の扶養控除等申告書』の提出がないにもかかわらず甲欄の税額を源泉徴収していると、徴収不足額が発生し、不足額を税務署に追加納付することになります。
最終的には職員本人から不足額を徴収することになりますが、数年に遡った場合は百万円近くなる場合もあり、直ぐに職員から徴収できるとは限りません。また、退職した職員にはどこまで請求できるかも分かりません。また、不足額に対するペナルティ(不納付加算税など)の支払いは法人負担になります
以上より、まずは『給与所得者の扶養控除等申告書』の提出の確認が必要になります。
よくあるケースは、入社した年分の『給与所得者の扶養控除等申告書』の提出漏れです。例えば令和5年に採用した方からは、採用時に令和5年分の『給与所得者の扶養控除等申告書』を書いてもらう必要が有ります。
なお、転職者の場合は、前職から交付されたで源泉徴収票があるときは必ず提出してもらい、前職分の金額を含めて年末調整するようにしてください。
また、所得税の扶養と健康保険の扶養では、要件などの範囲が異なりますので、その点も要注意です。
2.源泉徴収税額表の『月額表』と『日額表』
給与の源泉徴収税額表は、『月額表』と『日額表』があります。
『月額表』を使うのは、給与を月ごとに支払う場合や、半月ごと、10日ごとに支払う場合です。また、『日額表』を使うのは、給与を毎日支払う場合や、週ごとに支払う場合です。
通常、日額表の税額の方が月額表の税額より多く、日額表で徴収するべきところを月額表で徴収していた場合は、不足額が発生することになります。
理事会や評議員会の出席者に対する日当も給与として源泉徴収が必要ですが、出席した都度日当を支払う場合は『日額表』の税額となります。
3.通勤手当の距離
通勤手当は、公共交通機関利用者は定期券代等の実費により算定されていると思いますが、自家用車による通勤の場合は通勤距離に応じて所得税の非課税限度額が定められています。
基本は社員の自己申告によりますが、申告された距離が正しいかどうかの確認は必要です。
また、住所が変わった場合に、通勤方法や距離に変更がないか確認が必要です。
4.外部講師などへの謝金
研修の外部講師などへ謝金を支払う場合も所得税の源泉徴収が必要になります。
また、名目が交通費であっても、依頼者が交通機関や宿泊施設へ直接支払う場合を除き、謝金と同じ扱いとなり源泉徴収の対象となります。
なお、稀なケースではありますが、個人業の建築士への報酬も源泉徴収の対象となります。設計料などの報酬は比較的高額な場合が多いため、連動して源泉徴収税額も高額になりますので、源泉徴収漏れに注意が必要です。
5.ペナルティについて
源泉徴収した所得税は、原則として、給与や報酬の支払月の翌月10日が税務署への納付期限になります。
納付期限後の納付となった場合、納付した税額が不足していた場合は、不納付加算税が課せられます。自主的に納付する場合は不足する税額の5%、税務調査の指摘で納税の告知を受けた場合は不足する税額の10%となります。
源泉所得税は給与や報酬の支払いの都度発生するため、税務調査が入った段階では取り返しがつかないので、日ごろから整備しておきたいものです。