近年、暗号資産(仮想通貨)、特にビットコインを保有する個人が増えています。
タダ同然で購入したものが、ほんの数年間で驚くほどの価値になる場合もあり、問題を抱える日本の税制も相まって利益確定できない人も少なくないようです。
今後、相続の場面では、被相続人がビットコインを所有したまま亡くなるケースが増えていくと思われますが、暗号資産にかかる相続税と、その後相続人が売却した場合の所得税の取り扱いには、実は驚くべき落とし穴があります。
1.ビットコインを相続する際の課題
(1)相続時の評価
暗号資産の相続時の評価方法は、以下のとおりです。
| 活発な市場が存在する場合 | 暗号資産交換業者が公表する課税時期における取引価格 |
| 活発な市場が存在しない場合 | その暗号資産の内容や性質、取引実態等を勘案して個別に評価する |
マイナーな暗号資産については、個別に評価する必要があります。ビットコインであれば既に活発な市場が存在しますので、相続開始時の取引価格で評価されます。
仮に購入時に1BTC=100万円だったとして、相続時に1BTC=2,000万円だった場合は、そのまま2,000万円の財産として課税対象となります。
注意点としては、購入にかかった100万円を差し引くことはできません。
株式や不動産と同様に、暗号資産も「相続税評価額=時価」というルールが基本です。
相続税は最高55%の累進税率が適用されるため、評価額が大きくなっている場合には多額の納税が発生する可能性があります。
(2)暗号資産の存在を知らずに課税される可能性
暗号資産には経済的価値があるため、換金することができます。時価で課税されるとしても暗号資産をお金に替えることができれば、税金の支払いに充てることができます。
注意すべきなのは、遺族が故人の口座にアクセスできない状況でも課税のリスクがあるという点です。
<税務署が暗号資産の存在を補足しやすいケース>
被相続人が国内の取引所(コインチェック、ビットフライヤーなど)に口座を持っていた場合、取引所はKYC(本人確認)を行っており、利用者の氏名・住所・マイナンバーを把握しています。
相続人がその事実を知らないケースもありますが、税務署は必要に応じて金融機関や取引所に照会権限を持っているため、取引所への照会により資産を補足できる可能性があります。
相続人が取引所に保管されているビットコインの存在を認識していない場合、税務署に暗号資産の存在を補足してもらえることで、認識し得なかった財産を相続できるようになるかもしれません。
<税務署が補足しにくいケース>
問題は、相続人が被相続人の暗号資産にアクセスできない状態で、相続税の課税だけを受けてしまうケースです。
被相続人が個人管理のウォレットにビットコイン等を移していた場合、外部からは容易に残高を追うことができません。ブロックチェーン上のアドレスは公開されていますが、誰がそのアドレスの保有者かを特定するのは容易ではないからです。
ただ、税務調査でPC・スマホから取引履歴を発見されたり、「暗号資産に関するメモ」を税務署が把握すると、所得税や相続税の申告もれを指摘される可能性があります。
この時、遺族が故人のウォレットにアクセスできる状況であれば、その中から支払うことができますが、何らかの理由によりそれが難しい場合でも課税されるリスクは残ります。
(3)納税資金が足りなくなる可能性
相続時点で上がっていたビットコインの価格が、相続税納付前に暴落してしまうとどうなるでしょうか。
この場合は遡って相続税額を下げることはできず、ビットコインを売却して納税しようと思っても納税資金が足りない状況に陥る可能性があります。
ビットコインの売却分だけで納税資金を賄うことができない場合は、別のところから資金を工面する必要が生じます。
2.相続後にビットコインを売却する際の課題
(1)二重課税の問題
相続人が、相続したビットコインを売却した時はどうなるでしょうか。
不動産や株式もそうですが、相続により財産を取得した場合、基本的な考え方としては、その取得のためにかかった費用は引き継がれます。
先ほどの例で言えば、亡くなった方が1BTC=100万円で購入した場合、取得費の100万円は相続人である遺族に引き継がれるという考え方です。
例えば1BTC=2,500万円で売却したとしたら、所得計算は以下のようになると考えられてきました。
2,500万円(売却時の価格)-100万円(取得費)=2,400万円(利益)
従来のルールでは、時価2,000万円として相続し、相続税を課税されたにも関わらず、その後2,500万円まで価値が上昇した場合、相続税で課税された分は加味されず、2,400万円の利益に対して所得税が課税される二重課税の問題がありました。
これに対し、令和6年12月の「暗号資産等に関する税務上の取り扱いについて(FAQ)」で、ある大きな改訂が行われました。「1-5 暗号資産の取得価格」では以下のように示されています。
暗号資産の取得価額は、その取得の方法により、それぞれ次のとおりとされています。
※①、②、⑤は省略します。
- ③贈与又は遺贈により取得した場合(次の④の場合を除く。)
贈与又は遺贈の時の価額(時価)
- ④相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈又は相続人に対する特定遺贈により取得した場合
被相続人の死亡の時に、その被相続人が暗号資産について選択していた方法により評価した金額(被相続人が死亡時に保有する暗号資産の評価額)
つまり、相続時の評価額分は経費として差し引くことが認められたということです。
この改訂により、既に相続税が課税された部分についても所得税が課税される、という状況は脱することができたと言えそうです。
(2)損失が出た場合
1BTCを2,000万円で相続して、その後1,000万円に価格が下がった状態で売却したらどうなるでしょうか。この場合、前述のとおり、取得価格が相続時の2,000万円となりますので、相続人が所得税を課されることはありません。
ただし、暗号資産の所得区分は「雑所得」に区分されるため、損失が出ても給与など、雑所得以外の所得と損益通算することはできず、損失を翌年以降に繰り越すことができないことにも注意が必要です。
3.暗号資産の相続で注意すべきこと
暗号資産を相続する場合には、以下の点に注意が必要です。
- 価格変動リスクを意識する
相続税納付のためには現金が必要になりますが、納税直前にビットコインを売却して納税資金に充てようとすると、仮に価格が下がっていた場合には、納税資金を別のところから工面しなければならなくなります。
- 生前の準備が重要
ビットコインの評価額が高くなってしまっている場合には、生前贈与や信託の活用、早めの売却など事前対策が不可欠です。
- 情報共有と管理
暗号資産はウォレットの鍵や取引所のID・パスワードがなければ事実上相続できませんが、相続税だけ課税されるリスクが残ります。ご家族に適切な情報を伝えておかないと「存在するのに取り出せない資産」となってしまいます。
4. 今後の課題について
暗号資産は新しい資産クラスであり、現在の税制には課題が多いと感じます。
特に「相続税評価は時価だが、売却時の損失は救済されない」という構造は、相続人にとって大きな負担となりかねません。
今後、株式のように何らかの特例が設けられるかどうか、制度改正の動向を注視する必要があるでしょう。
まとめ
ビットコインをはじめとする暗号資産には、税に関するいくつかの課題があります。
現在は、ビットコインを相続により引き継ぐと時価評価で課税されますが、相続人が資産にアクセスできないと納税資金の問題が生じますし、相続手続き中も値下がりのリスクを抱えることになります。
その後、相続人が売却する場面では、ビットコインの売却益は雑所得扱いとなり、所得税の最高税率で課税される可能性がありますし、もし損失が出ても他の所得との損益通算や、翌年への繰り越しはできないというルールが適用されており、出口でのリスクが目立ちます。
価値が変動しやすい資産だからこそ、事前の相続対策と、ご家族への情報共有が何よりも重要です。
参考
国税庁 暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(令和6年12月)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/index.htm