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  • 2022.06.08
  • Category: あけぼの(社報)

【会報誌】あけぼの 2022年06月号

LINE UP:

  • 専門家としての職業倫理
  • 古今東西のおもしろい税金
  • 勤怠管理システムの導入はお任せください!!
  • 税務カレンダー ・ 相談役からの一言
  • 【特別編】 長崎市稲佐地区について

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掲載内容一部抜粋

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内田会計グループ 代表 長崎オフィス 所長 税理士 内田 佳伯

専門家としての職業倫理

 4月23日、知床半島沖で観光船が遭難し、乗員・乗客計26名の全員が死亡・行方不明になるという痛ましい事故がありました。九州の方も多くいらっしゃいました。事故で亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。事故原因の一つとして、悪天候の中で無理に出港したことが挙げられています。乗船した観光客の方々は、危険な出港だとは知らなかったでしょう。一般の方が危険度を判断することは困難でしょうから、専門家である観光船が出港すると言うのだから大丈夫なのだろう、と信用するしかありません。まさか、その専門家が利益のために顧客を危険に晒している、などとは考えないはずです。

  職業倫理、という言葉があります。プロとして持つ専門的な知識やスキルを、正しく使うことを求める考え方です。どの職業でも求められるものですが、特に専門家と言われる職業には強く求められます。専門性の高い知識やスキルが悪用された場合に、一般の方がそれを防ぐことは困難だからです。
 職業倫理を表すものとして有名な「ヒポクラテスの誓い」というものがあります。命を救うという、医師の使命を表しているものです。弁護士であれば人権の擁護と社会正義の実現、が使命であり、これを守ることが職業倫理でしょう。医師や弁護士などの専門家の方々がこの職業倫理を守っていると信じるからこそ、素人である我々は安心して専門家に任せることができます。

 貨客業の職業倫理は、お客様を安全に運ぶことが最優先、だと思います。速さや快適さは、安全あってのことです。今回の観光船の事故は、その職業倫理が蔑ろにされた結果だと感じます。乗客の中には、他の観光船が船を出さないのにこの観光船は船を出してくれた、顧客の要望に応えてくれる素晴らしいサービスだ、と思った人もいるかもしれません。しかし、それが安全を犠牲にしてのことであれば、本当のサービスではないと思います。加えて、乗客は自分の安全が犠牲になっていることを知らないのですから、より悪質です。

 税理士も専門家ですので、職業倫理を求められます。税理士法では税理士の使命として、「独立公正な立場で納税者の信頼に応える」「納税義務を適正に実現する」とあります。お客様のために節税をする、しかし法を逸脱する脱税はしない、という意味に受け取っています。いくら税金が安くなっても、後日それが脱税として摘発されては、本当のサービスではないでしょう。

 荒れた海に船を出すことが顧客サービスだと勘違いをしてしまわないよう、職業倫理や専門家として「守るべき一線」について考えさせられる事故でした。